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最高裁判所第三小法廷 昭和22年(れ)136号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人岡崎基上告趣意書は原判決ハ日本憲法施行ニ伴フ刑事訴訟法ノ應急的措置ニ關スル法律ニ違反シ虚無ノ證據ニヨリテ強盗ノ事実ヲ認定シタルノ違法アリ原判決ハ理由ノ部ニ於テ第二ノ事実ニ付「被告人等四名は互に共同して同家家人に對し暴行脅迫を爲し財物を強取しようと云ふ意思連絡の下に原審相被告人金徳守に於て其の場に在った襦袢を大村作太郎(當時五十七年)の頭から被せ紐で同人の両手を縛りなほ「我々は復員者だ、住む所も仕事もなく食ふに困るから盗って行く、金は何處に在るか、金を出せ」等と申向けその反抗を抑厭し同人をして右要求を拒否し得ざる程度に畏怖させて同人を脅迫した上被告人等は同人に案内をさせて階下物置の中から原審相被告人金徳守が現金六百圓餘、被告人李權植と原審相被告人金原基烱の両名が白米約七升餘、被告人李權植が階下の茶の間の箪笥からカーキ色軍服上衣一枚、薩摩絣單衣一枚、原審相被告人金原基烱が男物袷着物、羽織各一枚、メリヤスシャツ一枚を夫々取出し以て大村作太郎所有に係る前記金品を強取し」云々と判示シ大村作太郎方ニ於ケル強盗ノ點ニ付キ反抗ヲ抑厭スル程度ノ暴行脅迫ノ事実ヲ舉ケ之等ハ何レモ金徳守ノ爲シタル事実ヲ認定シ被告人ニ付キテハ之等暴行脅迫行爲ヲナシタル事ヲ認定セス被告人ニ付キテハ金徳守ノ暴行脅迫後白米七升カーキ色軍服上衣一枚薩摩絣單衣一枚ヲ奪取シタル事実ヲ認定スル一方被告人等四名ハ暴行脅迫財物奪取ノ行爲ヲナシタルモノナルニヨリ強盗罪ノ共同正犯ナリトナスモノナリ然レトモ原判決カ被告人ノ暴行脅迫財物奪取ノ意思連絡即相互認識ノ點ニ付キ原審ノ舉グル所ノ證據ハ被告人ノ第二審公判廷ニ於ケル被告人ノ供述被告人ニ對スル第四回豫審訊問調書中「四人共無理ニ戸ヲ開ケサセテ家ノ中ニ入リ脅カシテ盗ル氣ニナッテ家ノ中ニ入リ」云々ノ部分ト證人大村作太郎ニ對スル第一回豫審訊問調書中ノ同人ノ供述ノミニ盡クルモ被告人ノ第ニ回公判廷ニ於ケル供述中ニハ暴行脅迫及財物ノ奪取即強盗ノ點ニ付キ他ノ三人ト意思連絡アリタル旨ノ供述記載ナク證人大村作太郎ニ對スル第一回豫審訊問調書中ニモ之ヲ證スヘキ供述記載ナシ只前掲被告人ノ第四回豫審訊問調書中此點ヲ認メ得ル供述記載アルノミナリ然ラハ被告人カ他ノ三人ト意思連絡即相互認識ヲ有シタリトナス證據ハ右被告人ニ對スル第四回豫審訊問調書カ唯一ノ證據ナリ即チ相互認識ノ點ニ付キ日本憲法施行ニ伴フ刑事訴訟法ノ應急的措置ニ關スル法律第十條第三項ニ所謂被告人ニ不利益ナル唯一ノ證據カ被告人本人ノ自白ニ該當スルモノナルニヨリ之ヲ採ッテ以テ證據トナシ有罪ヲ認定スルコトヲ得サルモノナルヲ以テ原判決カ被告人自身ノ暴行脅迫ヲ認定セサル以上右被告人暴行脅迫及財物奪取ノ點ニ對スル相互認識ノ點ニ付キ被告人ノ自白以外ノ他ノ證據ナキ限リ被告人ノ所爲ヲ強盗ノ共同正犯ナリト認定スルハ右法律第十條第三項ノ規定ニ違反シ虚無ノ證據ニ依リテ相互認識ノ點ヲ認定シ從テ強盗ノ共同正犯ヲ認定シタルノ違法アリ破毀ヲ免レサルモノナリというのであるが、

日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の應急的措置に關する法律第十條第三項は、一つの犯罪について被告人を有罪とし又は被告人に刑罰を科するには、その證據が本人の自白だけでは十分でなく、他に傍證がなければならないことを規定したものであって、右の要件が備った場合でも犯罪事実の一部については證據として本人の自白があるだけで他に傍證がないという場合をも包含する趣旨ではない。本件において、原判決は判示第二の強盗罪について被告人の自白の外、證人大村作太郎の供述記載を證據として引用しているのであるから、所論のように被告人と他の共犯者との間の強盗の意思連絡について被告人の自白以外に他の證據がないからとて、前記法律の規定に違反して虚無の證據によって事実を認定したものとはいえない。されば、原判決には所論のような違法はなく論旨は理由がない。

以上は裁判官全員一致の意見であるので、刑事訴訟法第四百四十六條により主文のように判決する。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 庄野理一 裁判官島 保 裁判官 河村又介)

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